一口に真珠と言っても、真珠には海で育てられるアコヤ真珠、白蝶、黒蝶といった呼び名で知られる南洋真珠、そして川や湖で育てられる淡水真珠と、さまざまな種類があります。
養殖する国や場所もいろいろ。Mr. Pearlに産地の違いを教えていただきました。
――日本が誇るアコヤ真珠の養殖は、三大産地と言われる場所がありますね。三重県の伊勢志摩、愛媛県の宇和島、そして長崎の対馬・壱岐です。南洋真珠はタヒチやオーストラリアが代表でしょうか。
そうですね。代表的な産地としてよく知られているのは、そのあたりです。人間の手による技術は非常に大切ですが、まずは自然環境が揃わないと良い真珠は生まれません。繊細な美しさが魅力のアコヤ真珠は四季のある日本、大珠が育成されやすい南洋真珠は、年中温暖な気候のタヒチやオーストラリアの海が合っているのでしょう。ただ、アコヤ真珠は中国やベトナム、最近ではアラブ首長国連邦のアブダビやラス・アル・ハイマなど、日本以外にも養殖している国があります。その他、川や湖で育つ淡水真珠は中国が大規模に養殖しています。
――養殖される場所によって、採取される真珠に傾向はありますか。
ええ、ありますよ。たとえば日本のアコヤ真珠なら、伊勢志摩はホワイト系からクリーム、ピンク、グリーン、グレーなど、カラーが豊富で光沢が美しい珠が生まれます。宇和島は特にホワイト系やクリーム系が、とても美しいですね。対馬や壱岐は淡いピンク系やクリーム系に育ちやすく、高品質な珠が生 まれる確率が高いことで有名です。日本国内でも、産地それぞれの環境が異なりますから、自然の恵みである真珠も影響を受けるのです。
――日本国内でも養殖される場所によって、採取される真珠に傾向があるんですね! だとすると、海外で採取される真珠も違いがありそうです。
自然環境も当然影響しますが、それ以外にも、お国柄がかなり出ます(笑)。
――真珠養殖にお国柄が出る!?
たとえば、おおざっぱな括りですが、ヨーロッパ人は牧畜型、日本人は農業型、アラブ人は遊牧型といったように、各国の人々の歴史的背景による特徴が真珠養殖のやり方、目標にも表れている気がします。
――牧畜型、農業型、遊牧型……?
牧畜型のヨーロッパでは、まず一定のキャパの中で品質の良い真珠を作り、ある程度、時間が経過したら別の場所に移動、を繰り返す。遊牧型のアラブでは、自然に任せる部分が多い。農業型の日本はこまめに手をかけて、単位あたりの収益を最大限上げるように努力する。俯瞰的に世界の養殖真珠の現場を見ると、私にはこうした違いが見えます。面白いでしょう?
――面白いです! 目標の立て方によっても、違いが出ますか。
はい、出ますね。養殖業者の目指すところ、つまりコンセプトによって、出来が異なります。また、「売り方」にも違いが出ます。たとえば、黒蝶真珠で有名なタヒチはプロモーションが非常に上手い。タヒチ産の黒蝶真珠は世界的に有名で、名産品でもありますが、広告の打ち出しが巧みです。何しろ、観光と真珠がメインの収入源ですから、力も入るわけです。タヒチは一時期、巻きの薄い高品質とはとても言えない珠が多く生産されましたが、国が「巻きの厚み片側0.8mm以下は輸出禁止」という規制をかけたので、品質が安定していました。
――過去形でおっしゃっているのが気になります……!
ええ、実は心配な状況になっているんです。なぜか2018年以降、規制がなくなり、また品質が落ち始めています。色味やサイズ感がいまひとつ、といった珠が市場に出回り始めました。ことほどさように、国や産地の業者が目指すコンセプトによって、真珠の出来・不出来も左右されるものなのです。
――オーストラリアの白蝶真珠はいかがですか。
白蝶真珠はオーストラリア、フィリピン、インドネシア、ミャンマーなど、産地が多いですが、オーストラリア産がもっとも品質が安定しています。先ほど、ご紹介したお国柄でいうと、典型的な牧畜型で養殖しています。出所もしっかりしていますし、仕入れする企業にとっても、消費者にとっても、安心して買い求められる産地です。
――今日もとても勉強になりました! 次回もどうぞよろしくお願い申し上げます。